写真展の展示作品ができあがるまで
おかげさまで、無事先週の写真展が終了しました。
せっかくなので、自分用メモとして、どういう考えを巡らせて展示作品の完成へと辿り着いたのかを書き残しておこうと思います。
そこそこ意図とか細かく書こうとしてるのでそういうのが野暮だと思う方はご注意くださいね。あとほどほど長文になった。。
- 成果物
- 1st Phase 脳内でアイデア出し
- 2nd Phase アイデアが実現可能かどうか考える
- 3rd Phase コンセプトシート
- 4th Phase プロトタイプを作る
- 5th Phase 本番に向けて材料を調達
- Final Phase 写真を何にするか考えつつ装置を完成させる
- まとめと学び
成果物
まずは先に完成した作品ですが、こんな感じでございます。詳しい説明は後ほど。
1st Phase 脳内でアイデア出し
今回の作品展の動き出しは6月の中旬頃で、スケジュールとしてまずコンセプトシートの提出がありました。それが7月の中ごろ。
ちなみに今回のテーマは『面』でした。点・線ときて3回目のテーマとしてあらかじめ設定されていたものです。
というわけでさっそく形にして……というわけではなく、とりあえずは頭の中で色々と思いを巡らしてみます。
アイデアの出し方って人それぞれだと思うのですが、僕は学生時代から決まって『疲れてる時』『電車で座ってうとうとしている時』が良いものが出てくるので、出勤中とか、休日の移動中に頭をぼーっとさせて考えます(昔はあえて徹夜して頭を疲れさせてアイデアを出すなんてこともしてましたがさすがに今はちょっと……)。
まず『面』をどう捉えるかですが、ストレートに『めん / つら』を表現したいとも思いますし、ちょっと別の見方で解釈してみたいなとも思います。
つまりどういうことかと言うと「"面"という単語を使わずにそれを表現するとしたら、どういう言葉 / 行為になるだろう」ということを考えてみます。
例えば
- 「対話するための装置」
- 「感情がこぼれ出る隙間」
- 「人間性の表出」
- 「立体的であること」
- 「遮るような結界」
といった風に。
そこに『めん』『つら』『面と向かう』『平面』といった標準的なワードを掛け合わせて、被写体として何が考えられるか、何か面白い表現手法はないか、といった進め方をしました。
2nd Phase アイデアが実現可能かどうか考える
ある程度頭の中でアイデアが出てきたら、面白そうな案をもう少し具体的に考え始めます。要は仕様検討ってやつですね!
展示本番までのスケジュールから稼働できる日数を逆算しつつ
- 被写体 / ロケーションは物理的あるいは金銭的に可能か
- 余裕をもって撮り直しができるか
- 撮影以外に何か作る必要はあるか
- 表現したいことが可能か
- 今までやったことがないことにチャレンジできるか
といったことを検討しました。
この時点で思い浮かべていたアイデアは大きく2つあって、
■大きな鏡を持った人のポートレートを街中とか林で撮る
面というものをストレートに表現してみたい。鏡の大きさも、姿見サイズのものがあると写真映えがある。
■写真の上に布を被せてちょっとだけ見えるようにする
面と向かえない、チラ見せな写真は観る側に何かを残せるのではないだろうか。
というものでした。後者については実はこの展示会以前から思いついていて、Apple Watchを付け始めた頃に
こんな感じにカーディガンの布地からうっすら見えているのが面白かったので、何か使えそうだなと考えていたのです。
1つ目の案についてはミラーシートでできるだろうなと予測しつつ、ロケハンがそこそこ大変そうなこと、モデルが必要なこと、大きなミラーを作るのであれば破損しない搬送手段(車)が必要であることが懸念事項として挙がりました。
2つ目の案については布地の調達と、おそらくプリントではなくディスプレイの展示になることから、金額面が主な懸念事項でした。また言ってしまえばディスプレイに布を被せただけなので、それで本当に表現したいことができるのか、観ている人に伝わるのかがちょっと不安でした。
不安要素を出していったあとは、代替手段があるかどうかを考えます。
1つ目よりも2つ目の案のほうが不安要素が大きかったため、そちらをメインで考えてみます。
最初の案ではディスプレイ上の写真を布を隠すことでしたが、まずはその手法を疑ってみます。
ディスプレイ→普通のプリントではだめなのか→ディスプレイで見せることが必ずしも正ではない。
布→布以外に隠せるものはないのか→トレーシングペーパーとか?安いし→それだ!
ということで、割とあっさりと代替手段が見つかりました。
また、布だと写真が隠れてしまうのですが、トレペであれば隠れるというよりぼやける、つまりは写真として未完成な状態になることにも気付いたので、『面と向かう』を深掘りして「だったら写真を完成させるプロセスに鑑賞者を参加させるのはどうだろう?それなら、観てる人が写真と向き合うことになるんではないか」とコンセプトを変えることにしました。
けっこうこの時点で、どの案で進めるかがほぼ決まったような気がします。
ちなみにこの時点では実はまだディスプレイでいくことも諦めてなくて、距離センサーで近づいたらぼやけてた写真が徐々にはっきりする、とかも考えていたのですが、直に作品と触れたほうが楽しそうだったのでアナログでいくことにしました。
3rd Phase コンセプトシート
ここまでアイデアを出しつつ実現可能かどうかを探り、そこからさらに案をブラッシュアップしていったタイミングでコンセプトシートを提出しました。
最終的に提出したコンセプトシートに記入した案は3つ。
3案目はちょっと無理やりひねり出した感がありましたが、やってみたら面白そうだなと。
2案目はすでに完成形とほぼ同じ装置(磁石で浮かす)を思い付いていました。
無事に方向性も決まり、7月の下旬頃から制作を開始しました。
4th Phase プロトタイプを作る
常日頃からプロトタイプは大事だと言っていますから、やはりここでもその精神は発揮すべし、ということでまずは改めて仕様を確認。
ここまで頭に思い浮かべた時点であることに気付いたんですね。トレペを押し込むの無理じゃね?と。
すぐに仕様変更をし、
- アクリル板にトレペを貼る
- アクリル板をヤスリがけして曇らせる
- PP板などの軽い材料を使う
を解決の仮説として立てました。
一旦この時点で3Dで作成して問題がないか確認をしてみることに。
↑は最終データなので最初の頃とはちょっと違いますが、まあ概ねこんな感じでした。実際の展示では、これが3つ置かれます。
この装置、真ん中に四角く穴を開けることで写真を裏から貼れるようにしています。これには理由があって、装置を作るのに時間がかかることは予測済みだったので、前日までに写真を印刷しておけばあとは裏からペタッとするだけで作品が完成するようにしておきたかったのでした。
浮かす仕組みについては、木枠の中に磁石を嵌めることで、目に見える部分の磁石がいい感じに浮いてくれるという算段。ちなみに磁石は穴が空いているものがAmazonで見つかったのでそれを使うことにしました。
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プロトタイプは安く作りたかったので、木枠には杉を、高いアクリルではなく安いPP板で試すことに。磁石に通す棒は東急ハンズでステンレス棒Φ4x300mmがあったのでそれを。天板は、ラワン材よりMDFのほうが木枠を接着した際に水平を保ってくれいやすいことを前回の展示で経験していたので、ちょっとお高いけどそれで。
PP板は100均でいいサイズが揃っていることをネットで知ったので、だいたい2000円いかないくらいで作れました。今思えばもっと少額でも作れましたね。。
全体のサイズ感としては300x300x30mmとなりました。
プロトタイプを作ってわかったこと
雑な作りではありましたが、いくつか発見がありました。
- PP板に開ける穴はそこそこ大きいほうがよい(小さいと棒に簡単に引っかかる)。
- 磁石は2個(埋まってるのを合わせると3個)が限界。それ以上は押し込んだ時に写真との距離が遠くなってぼやけたままになる。
- PP板、意外と浮かんでくれる
- 押し込んだ手を離すと板がビョーンと跳ね上がるため、上部にストッパーが必要
- 最初は壁掛けを想定してたけど、床面に対して並行に置いたほうが良い
- こ の 磁 石 割 れ や す い
感触としては、意外とうまくいったなと。ていうか仕様として完璧じゃなイカ!というテンション、これはもう本番用作るっきゃないと材料をポチー。まさかあんなことが起こるとは思いもせずに……
5th Phase 本番に向けて材料を調達
調子に乗った僕は本番用に材料を揃えることに。レシピはこんな感じ。
- PP板ではなく半透明のアクリル板
- ステンレス棒を仕掛け3個分買うと結構いい値段になるため、パイプに変更
- 木枠は杉ではなくもうちょいいいやつ(確かホオ)
- 磁石とMDFは変わらず
- 跳ね上がりストッパーは適当なキャップを見繕って(最終的にはアクリルパイプに変更)
はい、実はこの中にミスが3つ隠れています。どこでしょ〜かっ!?
正解は
■アクリル板
300x300x3mmだと思いのほか重く、磁石が耐えられずに沈み込む
■ステンレスパイプ
なんと曲げ加工されたステンレスは磁力を持つのだ
■いい木
ステンレス棒が穴に入らないほど硬い!ハンマー必須
いやびっくりしたね。何がびっくりって2点目ですよ。確かに思い返せば、ステンレス製の棚とかって磁石付くんですよね。でもそれが曲げ加工されてるからだとは知らなかったよ!ステンレスの板めっちゃ曲げてパイプにしてるんだからそりゃ磁力もビンビンよ。
ちなみに磁性を取る方法ってないのかな〜と気楽に調べてみたら「1000℃近くに熱した後、急速に冷却する」って出てきた笑った。
アクリル板に関しては、もっと小さなサイズから試作するのが正解だったなーと今更ながら。小さく始める is 大事。
アクリル板自体はPP板より質感が良く、展示物として映えるので、枠の幅を300x300mmから240x240mmへと仕様変更することで対処。あと厚みを2mmにした。展示中に割れるかな〜と思って1枚予備も用意してたけど、無事乗り越えてくれました。
ちなみにこの後も、ハンズで棒材のカットができることを知らずに金切りノコとパイプカッター買ったり(ステンレス棒切れなくて詰んだ)アルミパイプ買ったり(パイプカッターで切るのしんどくて詰んだ)と阿呆な失敗が続きました。
ハンズ is 神。
あと用心して個別に置いてた磁石が展示3日前くらいにひっつき合って3,4個割れて展示の個数に足りなくなった時はマジで血の気が引いた。
そんなこんなで装置をどう作るかをFixさせたのが8月も中旬が過ぎた頃でした。
……あれ写真は?
Final Phase 写真を何にするか考えつつ装置を完成させる
というわけで最後の段階になって初めて写真を何にするか考えることに。
今回の展示のコンセプトとしては
- 鑑賞者を写真の完成プロセスに参加させる
- それによって初めて、鑑賞者は写真と面と向かうことができる
が始めにありましたので、これをベースにもう少しどうにかできないかと考えてみました。
具体的には、展示として伝えたい表現やメッセージとは別に、自分自身がどういうスタンスで写真というものを考え、提供したいかを考えました。
今回に限って言えば、インタラクションを伴った展示でしたので、写真自体にも意味を持たせたいし、写真自体が鑑賞者に対して問いかけを提示できるようなモチーフであることが良いのではと考えました。つまり、被写体としてそれをクローズアップすることで、シンプルな力強さが持てるような構図が好ましいと感じました。
また、半透明のアクリル板によってぼやけた写真は綺麗に映りますから、押し込んで完成した写真にネガティブな感情があったら面白いのではとも思いました。
ここからコンセプト自体にも少し手を加え、未完成の状態では魅力的に映るのに、いざ完成させると何かしらメッセージ性(少しネガティブな)を感じ取れるモチーフが表れる。では一体、どちらの状態が鑑賞者にとっては良い写真だったのだろうか?という問いかけが、最終的なコンセプトとしました。
この時点で8月の下旬頃。
この勢いで写真もパパっと撮るぞとなればいいのですが、まあそう上手くもいかず、またしばらくは頭の中で考える時間が増えるのですが、最終的には
- 刺々しさがある写真
- 歓楽街の艶やかな写真
- 鑑賞者を鑑賞し返す写真
を撮ることにしました。これが9月に入った頃。
1つ目は過去の撮影写真を漁ってたらいがぐりのマクロ写真がたまたまあったのでそれを採用。残りの2点は新宿で撮影しました。印刷はキンコーズでやることにしたので、3つ目は展示前日の朝に撮り直しをしたりも。写真を後で貼れる仕組みにしててホント助かった……
写真の撮影と並行で装置の仕上げも最終段階に。木枠を壁補修パテでコーティングしたり、磁石を塗装して、なるべく重さを感じられないようにしました。もっとも、磁石はこすり合うので展示中塗装がはげちゃいましたが。
そんなこんなで、なんとか本番ギリギリで間に合わせることができましたとさ。
まとめと学び
- プロトタイプは機能的にも物理的にも小さく始めること
- ハンズは棒材も切断できるぞ
- いろいろ考えてものを作るのはやっぱり楽しい
やってみた当人としては、写真単体ではなくその周辺も含めて展示として見せられたのは良いチャレンジだったのかなと思います。アナログなインタラクション面白い。
反面、写真そのものに時間が割けなかったのは反省かなと。あと次回はシンプルに写真だけでやってみたい欲も出てきたり。でもやりすぎるくらいがちょうどいいのかもな〜とも思ったり。
ちなみにもし次回同じような装置を作るとしたら、四隅だけ段差を付けて磁石だけ下にうまく沈む設計にしてみたいと思います(展示前々日に思い付いた……)。
次回開催は来年4月を予定していますので、もしご興味あればぜひいらしてください!